ようこそ!燕物産の工場見学ツアーへ。
このガイドはセルフ再生式になっており、現場の各作業場や機械には番号が振られています。
見学の際には、割り振られた番号の再生ボタンを押してください。該当する工程の解説が流れ、見ている作業とナレーションがリンクします。
少し耳を傾けながら、目の前の機械や職人の姿と重ねてご体感ください。
≪皆さまへ大切なお願い≫
・工場内は機械音が大きいため、音声ガイドの音量を上げてご利用ください。(イヤホンを使用する場合は、安全のため必ず片耳でご利用ください。)
・工場内は危険ですので、スタッフの指示に必ず従ってください。
・撮影は原則禁止となっております。撮影可能エリアのみでお楽しみください。
・勝手に機械や製品に手を触れないでください。
・立ち入り禁止区域や見学不可区域には入らないようお願いいたします。
・足元が滑りやすい場所や段差がありますので十分にご注意ください。
・ルールを守れない方には社員からお声がけさせていただき、見学を中断していただく場合があります。ご了承ください。
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※如需中文版本,請點擊這裡。
▶マークは弊社専務の小話(サイドストーリー)です。工程と工程の合間に、是非お楽しみください。
改めまして。ようこそ、燕物産の工場へ。
ここは、弊社が燕市で初めて金属洋食器を製造してから114年。今では日本一の金属洋食器の街に発展しました。この燕市から、世界中の食卓に届けられます。皆さまの食に寄り添うカトラリーがつくられるその様子をご覧ください。
さて、新潟県燕市は江戸時代からおよそ400年にわたり、金属加工で発展してきた職人の街です。燕物産の創業は、1751年。江戸時代中期のことでした。初代、捧吉右衛門が金物商として商いを始め、江戸の町へ、和釘や煙管(きせる)、鑢(やすり)などを卸していたと伝えられています。
やがて時代が移り変わり、扱う品々も変化していきました。
大きな転機となったのは、明治時代の文明開化。西洋の文化――洋食が、日本の暮らしに広がっていったのです。貴族や外交の場で親しまれていた洋食は、やがて一般家庭にも広まり、カトラリーの需要が高まっていきます。
そして114年前。燕物産は、日本で初めてのカトラリー専門メーカーへと転身しました。
ここから、燕物産の長い歴史と挑戦の物語が始まっていきます。
最初にご覧いただくのは、材料であるステンレスの金属板から、カトラリーの形をつくる成形工程です。
この工場からは、毎月およそ15万本のスプーンやフォークが生まれています。製造ラインは2つ。
100年以上前から受け継がれてきた職人の手仕事による手動ライン。
そして、ロボットアームを使った半自動ラインです。
基本的な流れは同じですが、加工できる素材の種類や、デザインの自由度に違いがあります。硬く冷たい金属の板に、機能美が吹き込まれていく様子を。
そして、繊細な作業を効率よく進める、職人の姿にご注目ください。
番号P1、“材料切断”の工程です。
燕物産のカトラリーは、この高品質なステンレスから生まれます。十トンを超えるステンレスのコイルから必要な分だけ切り出し、一辺一メートルほどの長方形の板に加工します。
さらに、スプーンやフォークの大きさに合わせて、小さな長方形の板へと切断していきます。この作業を、「マス切り」と呼びます。歩留(ぶど)まりよく、無駄が出ないように、寸法は綿密に計算されています。
切断機が響かせる “カチャン” という硬質な音。これは、鋭い刃が正確にカットできている証です。
熟練の職人は、その音や刃の感触から、わずかな誤差さえも感じ取ります。もし切断が正しく行われなければ、切断面に凹凸が残り、後の工程に支障をきたします。
ここから、一本のカトラリーの物語が始まるのです。
番号P2、“地抜き”の工程です。
ここでは、板から効率よく、スプーンやフォークの形を打ち抜きます。互い違いに配置して抜くことで、無駄なく、より多くの本数を打ち抜くことができます。
ぜひ、「地抜き」の屑にもご注目ください。限界まで使いきる、その工夫と職人技を感じていただけるはずです。金型に板がセットされ、プレスされる瞬間。鋭い “バツン” という音とともに、スプーンのシルエットが浮かび上がります。まだ平たい形ですが、ここで初めて、ハンドルの輪郭が生まれるのです。
前の工程、材料の切断と同じように、適切に打ちぬかれていないと、破断面に凹凸やねじれ、歪みが残り、美しいカトラリーには仕上がりません。
成形を担当する職人たちはこう語ります。「地抜きの精度で、不良率はすべて決まる。後戻りできない、大事な工程だ」と。
番号P3、“ロール”の工程です。
ローラーで金属を延ばし、スプーンのすくう部分――ヘッドの形を、徐々に薄く広げていきます。掬いやすさや、口に含んだときの心地よさは、この工程で決まっていきます。聞こえてくるのは、ダン、ダン、ダン……とリズムを刻む音。そして、シャリシャリと擦れる独特の響きです。
職人たちは、その音や、手に伝わるわずかな抵抗感から変化を見極め、ローラーに通す回数や圧延(あつえん)の段階を調整していきます。一見同じに見えるステンレス材も、製造ロットや、その日の気温によって硬さや伸びやすさが異なります。
雪深い冬の時期には、加工の前に灯油ストーブで金属を温める姿も見られます。ロボットアームよりも素早く、目にもとまらぬ速さで加工していく職人の技に、どうぞご注目ください。
数回に一度、金属を表裏ひっくり返しているのにお気づきでしょうか。音と手の感覚だけで、マイクロ単位の厚さの変化を見抜き、正確に仕上げていくのです。都度チェックする必要もなく、所定の厚みに仕上がったカトラリーが積み上がっていく――。それは、熟練の技だからこそ実現できる光景です。
実は、カトラリーのヘッド部分をどこまで薄く伸ばすと食べやすいのか――これは、カトラリーが誕生してから300年にわたる経験の積み重ねで、最適解が導かれたといわれています。燕物産では、最大5ミリ厚の材料を使いますが、スプーンの先端はおよそ1.2ミリ、フォークの先端は1.5ミリまで薄く延ばしていきます。
この薄さの指定は、業界の“暗黙のルール”。図面には書かれていませんが、長年の経験と職人の勘で、言わずとも自然に守られています。
食べやすさのポイントは、先端にいくほど薄くなること。ヘッドの厚みの変化が、とても重要です。しかし、ローラーの回転する二つの金属筒は並行に回っています。普通に加工すれば、同じ厚みになるはずです。では、どうやって厚みの変化をつくっているのか――。そこは、企業秘密。職人の手と経験だけが知る、見えない工夫の世界なのです。
番号P4、”半切り”の工程です。
ここでは、プレスによって、スプーンの最終的なシルエットを打ち抜きます。この瞬間、初めて――「あ、スプーンだ」「これはフォークになるんだ」と、形がはっきりとわかるようになります。この工程は、いわば“これまでの加工の答え合わせ”。切断面に凹凸があったり、金属に捻じれや厚みの不具合が残っていたりすると、正しく加工できません。最悪の場合、完全な不良品となり、製品にならないのです。
運がよければご覧いただけるでしょう。職人が工程見本と重ね合わせ、横からじっと形を見つめ答え合わせをしている姿を。そこには、確かな眼と熟練の感覚が息づいています。
番号P5、”刃抜き”の工程です。
ここでは、プレスによってフォークの刃をつくっていきます。フォークのヘッドは、一度のプレスで形が完成する――そう思われがちです。しかし実際には、半切りでシルエットをつくったあと、二回に分けて加工していきます。
刺さりやすい細さを実現するためには、手間がかかっても、刃の捻じれや欠けを防がなくてはなりません。まず一回目のプレスで両サイドの刃を。そして二回目で中央を打ち抜き、ようやく完成するのです。単純に工程数は二倍になります。たとえば一万本を製造する場合――刃抜きだけで、二万回もペダルを踏むことになります。一本一本のフォークに、地道な積み重ねが込められているのです。
番号P6、”柄押し”の工程です。
柄押しでは、持ちやすさや使いやすさに直結するハンドルの立体成形。そして、デザインを表現するための凹凸、材質表記などの刻印をつけます。この工程は表と裏を一度に加工します。細かな模様をほどこし、押し出される金属や力を上手く分散させる精密な金型によって支えられている工程です。手に馴染むよう破断面の角や縁を丸め、後工程の研磨工程で仕上げやすいように、下準備をする工程でもあります。手と足と別の動きをしながら、リズムよく加工される様子にご注目ください。
番号P7、”ツボ押し”または”刃押し”の工程です。
スプーンやフォークのヘッド部分、“口に含む部分”を平面から立体に成形します。平面の板から劇的に変化する工程のため、繊細なコントロールが求められます。表側は金属が縮まり、外側は金属が伸びる変化。失敗するとシワがよったり、波うったり、最悪割れてしまうことも。成形における最終工程。これまでの工程を正確につなげてきたか答え合わせになります。一見簡単そうに職人は加工していますが、最高級品である月桂樹を加工できるようになるまでに最低5年の経験が必要です。
同じプレス工程でも2種類の機械を使い分けていることにお気づきでしょうか?半切り・刃抜き工程は”パワープレス機”を、柄押し・ツボ押し・刃押し工程は”フレキションプレス機”を使用しています。弊社のプレス機は1960~70年代に製造されたもの。新たにつくることは難しく、現存する機械を修理しながら使い続けています。
通常機械は、設定した同じ条件で常に動きをします。スイッチを押せば、基本誰でも同じ圧力、スピードで加工ができます。しかし、フレキションプレス機は、動きが固定されない、職人の右足ひとつでコントロールする特殊な機械です。強く踏めば、強い負荷がかかります。ペダルを踏む深さ、強さ、タイミングなどで機械をコントロールします。職人は数本のカトラリーを使って調整したあと、狂いなく同じ動きをひたすら続けていきます。
ぜひ、手元だけでなく、職人の足元にもご注目ください。
最高級品である月桂樹シリーズでは、29工程と倍以上の手間と時間がかかっています。例えば【曲げ】工程です。金型への負荷を軽減し、模様や立体造形を正確に再現する下準備。それだけでなく、手に持った時に自然にフィットする感覚を作ります。また、工程数が増えてくると金属は硬くなる「加工硬化」が発生し、加工が難しくなっていきます。高熱で焼くことで強制的に金属の組成を変化させ柔らかくさせる【焼鈍(しょうとん)】という工程もあります。
番号P8、”自動研磨”の工程です。
バフと呼ばれる布でスプーンの表面を一気に整えます。シャーッと削る音に耳をすませると、スプーンがツヤを帯び始める瞬間が感じられるでしょう。
番号P9、”側面研磨”の工程です。
スプーンやフォークを10本前後まとめて持ち、側面を削り、磨きあげる工程です。最新鋭の海外の工場でも、職人の手により加工されています。側面の仕上がりを燕の真骨頂、熟練工による磨きの工程。一本一本、鏡のようになるまで磨き上げられます。目の前の製品に自分の顔が映るほどの仕上がりです。
番号P13、”完成品・出荷”です。
包装を終えたスプーンは、ついに完成品として出荷の準備が整います。箱に詰められた製品は、全国や世界各地の食卓へと旅立ちます。ぜひ細部に宿る職人技を感じてみてください。
それが燕物産が世界に誇るものづくりの答えです。
最後までお聞きいただき、ありがとうございました!
日本有数のものづくりの町として知られ、長い歴史のなかで培われてきた、新潟県燕市の金属洋食器製造の技術は、今もなお受け継がれ、職人の技と誇りが日々ここで息づいています。
ご覧いただいた通り、一つのカトラリーには創業時から続く職人の技と想い、工場全体のチームワークが込められています。
ぜひ、本日見ていただいた製品に実際に手で触れて、その輝きや重み、長く愛用できる確かな品質をじっくりと感じてみてください。
燕物産のカトラリーは、一生ものとして大切に使っていただける道具です。
末永く皆様の日常に寄り添い、その存在が豊かな食卓を彩ることを願っております。
本日は燕物産の工場見学にお越しいただき、
誠にありがとうございました。